ウェディングデザインのプロから学ぶ、自分らしい家づくりのヒント。(中家 拓郎さん)

2018.3.9
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これまでHouse Designsでは、インテリアショップ、工務店、グリーンショップなどさまざまなデザインのプロ にお話を伺ってきました。今回は、いつもとは少し違った視点で、「デザインとは何か?」「空間づくりとは何 か?」について考えてみたいと思います。

今回インタビューをさせていただいたのは、ウェディングを中心に、住空間、店舗、舞台演出など、さまざまな 空間デザインを手がけている中家 拓郎さん。ウェディングの事例と合わせながら、空間デザインとは何か、じっ くりとお話を伺いました。

 

人生としての仕事

 

中家 拓郎さん今回お話を伺った中家 拓郎さん


オーダーメイドウエディングのプロデュース会社「Bridal Plus(Smile Stori inc.)」で、デザイナー・アート ディレクターを務めながら、フリーランスとしても、さまざまな空間デザインを手掛けている中家さん。大学で 建築デザインと都市計画を専攻後、大手建築事務所で公共建築を中心とした 意匠設計に携わっていたそう。まず は、これまでの経緯をお伺いしました。

 

中家さん: 「前職で名古屋に転勤してきたタイミングで、東日本大震災、友人の事故死など、色々とつらいことが重なったんです。それから自分の人生のことを深く考えるようになりました。自分はそのとき一番やりたいことをやって、見たいものを見て、会いたい人に会って、という「今」の感情を大切にした生き方をしないといつか後悔しそうな気がしたんです。当時携わっていた病院建築の設計も、すごくやりがいはあったんですが、病院建築は専門的知識や経験が必要な設計業界でもかなりマニアックな業界なので、その中の本物のプロは業界でも一握りです。その道に自分の人生を賭す覚悟がないと、中途半端になってしまうと感じていました。

 

もう1つは組織の一員である以上、仕事をする上ではその会社の看板がついて回ります。でも僕は個人としての僕として関わってくれる人と仕事をしてみたかった。それがどんな小さなことだとしても、自分のできることで人に必要とされたいと思うようになりました。また、プライベートの時間はほとんどなかったので、ワーク・ライフ・バランスも崩れていましたが、そもそもワークとライフを分けることにも違和感がありました。

 

2012年に設計事務所を退職し、2013年に独立しました。物に執着しないミニマルな暮らしや、シェアという概念が社会に浸透してきた時代でした。当時はまだ名古屋にほとんどなかった、多業種が集まる秘密基地のようなシェアスペースや、コワーキングスペースの立ち上げの時期と重なり、そんな場や人との出会いが、今の僕の生 き方や仕事のスタイルに大きく影響しています。」

 

その後、Bridal Plusの社長との出会いからウェディングのプロデュースも手がけはじめます。ここからは、実際のウェディングプランと合わせながら、ご紹介していきます。

 

その場のもつ力を借りた
「One Night Circus」

 

One Night Circus中川運河の使われてない倉庫での非日常のパーティ「One Night Circus」


中家さんの原点となっているウエディングを教えていただきました。

 

中家さん: 「まだウエディングの実績がほとんどない頃、中川運河の使われていない倉庫で、非日常のパーティを演出しました。いろんな方のご好意で特別に貸して頂いた場所で、イベントを含め前例はありません。初めてその場所に行ったとき、その空間に圧倒されました。数日かけて掃除業者に入ってもらった後でしたが、外階段は錆び、フローリングは塗装が剥げており、電気が通ってないので無数にぶら下がる蛍光灯はオブジェでした。しかし、古い倉庫がもつ無骨なかっこよさがありました。だから、きっと誰も見たことがないようなパーティを作 れると確信しました。

 

一般的な感覚からするとウエディングの会場としてふさわしい場所とは言えません。しかし、このときの新郎新婦にとってはここが最高の場所でした。音楽バンドをやっていてライブで人を楽しませるのが何より楽しいという新郎、料理が好きで友人に振る舞うのが何より好きという新婦、そんな、周りの人を楽しませたり驚かせたりしてきたお2人だからこそ、スタッフも含め、一夜限りのサーカス団を結成し、サーカスような非日常のパーティでゲストを楽しませました。そんな提案に、この場所は唯一無二の会場となりました。

 

一人一人が歩んできた人生が違うので、ウエディングもその人に合った場所があります。誰かにとっての最低が、誰かにとっては最高かもしれません。「一般的」「常識」「当たり前」という言葉では括れないものがあります。いかにその人のこれまでの人生、これから先の人生に寄り添い、その人の価値観を尊重した提案ができるか、僕が大切だと思うのはデザインのセンスよりも、それを読み取り形にする力です。」

 

One Night Circus

One Night Circus

 

結婚式と建築。一見別々に感じる二つですが、考え方は一緒だと言います。

 

中家さん: 「この倉庫のような何もない会場だと、現場の測量からはじまり、どこに何を配置して、どれくらいのテーブルがいくつ必要とか、どういう配置が良いのかをゼロから考えるので、建築の知識も必要です。特にこういう場所だと、リノベーションの感覚に近いです。窓の位置、壁の素材、今あるものをどう活かして、どこを取り除くのか、引き算・足し算を考えます。倉庫の外に置いてあったドラム缶をスタンディングテーブル代わりにしたり、既成の概念にとらわれないことも大切です。」

 

「今あるものをどう活かして、どこを取り除くのか」リノベーションにとって一番大切なポイント。住宅の事例だけでなく、こうした空間デザインや、店舗デザインからも、住まいに活かせるアイディアは見つかりますよ。

 

 

誰かにとって意味をもつ空間

 

中家 拓郎さん


結婚式をはじめ、フィールドを問わず、これまで100件以上の空間デザインプロデュースを手がけて来た中家さん。空間デザインに対しての考え方を教えていただきました。

 

中家さん: 「空間や装飾をつくるときには、全部に意味を持たせるようにしています。一応嫌いな色とかは聞きますが、お客さんの言葉をそんなに信じてはいないんです。好きな色とか、アイテムで空間をつくるんじゃな くて、もっと本質的な部分を考えます。

 

例えば、ここに麻のコースターがあります。麻って高くまっすぐ育つので、中国に伝わることわざには蓬のように曲がりやすいものでも、まっすぐな性質の麻の中に入って育てば曲がらずに伸びる(人は善良な人と交われば自然に感化を受け、だれでも善人になるというたとえ)ということわざ があります。また、人類が栽培してきた最も古い植物のひとつとして1万年を超えるつきあいがあります。そう した歴史や背景を読み取ると誰かにとっての特別なアイテムになる可能性があります。どんなものでも、その文脈を読み取ることは何より大切です。

 

Monocrome


ただおしゃれに、インスタ映えする空間なら簡単です。でも僕は、それだけじゃ決めれられないんです。椅子、テーブル、お花、すべてに、自分がこういう理由で、こういう想いで、こうしましたって説明できる空間しかつくりません。たとえそれがおしゃれでなくても、誰かによって意味のある空間なら、それが良い空間だと思うか らです。名古屋テレビ塔の中にあるレストランで行ったMonocromeという事例では、結婚式では一般的にはNGな黒を使ったプロデュースをしました。ご親族や職場上司への配慮などが必要なケースもありますが、基本的にはそこに意味があれば、常識にとらわれなくて良いと思っています。

 

Monocrome

Monocrome

 

僕たちの仕事は、お客さんに言われたものを用意することではありません。空間とか、世界観をイメージするのって難しいんです。建築でも、平面の間取りで迷っていても、よくよく話を聞くと大切にしたいことは別にあったりします。お客さんの気持ちにとことん寄り添った上で、その想像を超えるものを提案していけるのが、デザイナーの本当の職能です。そして、デザインしつくった空間が自分の手を離れ、お客さんのものになったとわかることがあります。それが何より嬉しい瞬間です。」

 

Monocrome

Monocrome

 

壁の色を選ぶとき、家具を選ぶとき、好きな色、流行りのデザインだけで決めていませんか?「全部に意味を持たせる」という考え方は住まいにおいてもとても重要なポイントだと思います。どういう理由で、どういう想いで、それが良いのか、考えることも大切ですね。

 

 

どこまでも気持ちに寄り添う

 

提案のときに描いたスケッチ実際に提案のときに描いたスケッチ。とても優しい色使いで、パッとイメージが広がります。


中家さん: 「お客さんの気持ちにとことん寄り添うために、ヒアリングをとても大切にしています。弊社ではお茶会とよんでお茶菓子食べながら雑談するのですが、限られた時間の中で、お2人のことをできる限り知ろうとします。結婚式でしたいことや装飾のイメージだけを聞くわけではないです。どんな家族のもとに生まれて、ど んな子供時代を過ごしたか、何を頑張って大人になったのか。そしてお互いに出会ったときに、どう感じたか、 どこに惹かれあい、2人でどんな時間を過ごしてきたのか。これから先、何を大切に生きてどんな人生を歩みたいか。

 

提案のときに描いたスケッチ


バックグラウンドを聞くと、こういう人だから、こういうところが好きになったんだなとか、すごく腑に落ちるんですよね。また言葉だけではなく、服装やアクセサリー、ネイルの有無、声のトーンや大きさ、目線などからもわかることがあります。そして、最後に聞く質問としては、「なんのために結婚しますか?」「なんのために結婚式をしますか?」があります。お客様も意外とその中でお互い初めて知ることがあって驚いたり恥ずかしがったり、お2人の歴史を振り返る良い時間になったりします。こうしたプロセスも含めて僕たちも、お客様自身も結婚式という特別な1日にどう向き合うかを考えていきます

 

 

今って価値観も多様化しているから、結婚しない方もいるし、結婚しても子供を作らない方もいるし、結婚しないけど子供はほしい方もいるし、LGBTの方もいます。結婚式も決して安いものではないので、式をあげない夫 婦も少なくありません。結婚も結婚式をすることも、当たり前ではないからこそ、一人一人その理由を知り合い と思っています。それがどんな空間・時間をつくるかに大きく関わるからです。」

 

結婚式と同じように、家を建てないという選択肢を選ばれる方も多くなっています。その中でも、「どうして家を建てたいのか?」「どんな家庭にしたいのか?」その理由をじっくり考えることが、良い家づくりにつながります。

 

席札1つから空間をつくった
「HOME」

 

国際結婚のアウトドアパーティHOME

国際結婚のアウトドアパーティHOME

 

続いては、国際結婚のアウトドアパーティです。この式は、アートディレクションとしての役割を実感した一日だったそうです。

 

中家さん: 「友人の結婚式ということもあり、全て任せてもらったので、招待状・席札・メニュー表・エスコー ドカードなどペーパーアイテム、ウェルカムボードやリングピローなどの小物、料理、装花、配置計画、空間演出までを一つのコンセプトのもとデザインとディレクションをしました。席札1つでも空間をつくると考えています。僕は席札をデザインすると同時に、席札が置かれたテーブルの上を想像し、そのテーブルが並んだテントを想像し、そのテントが並んだ芝生を想像します。料理や装花については、料理人やフラワーアーティストにも力を借りますが、一貫したコンセプトを元にイメージを擦り合わせていきます。

 

国際結婚のアウトドアパーティHOME

国際結婚のアウトドアパーティHOME

 

僕はいつも1つ1つの結婚式に名前をつけ、ストーリーという、詩のようにまとめたコンセプト文を添えて提案します。お2人の気持ちにとことん向き合ってつくるので、短い文章ですがとても悩むし時間がかかります。でも、コンセプト文を読むだけで涙してくれるお客様も多く、その時はちゃんと寄り添えていると確信をもてる瞬間でもあります。「あの雑談をこんな風にまとめてくれたなんて」と驚かれるのですが、実はその言葉のほとんどはお客様自身が話したことなんです。特別なエピソードがなくたって誰しもその人だけのストーリーを持っています。僕はただそれを紡ぐだけ。そして、この名前とストーリーと、デザインのスケッチは、お2人とのイメージ共有であると同時に、プランナーや司会・映像・写真・料理・装花・音響・メイクまで、関わるスタッフ全員へが同じ目標をもつための共有にもなります。」

 

国際結婚のアウトドアパーティHOME


「名前をつける」というポイントは住まいにも活かせそうなアイディアです。つい間取り広さ、収納など現実的な部分に目が行きがちですが、名前をつけることで、インテリア・家具・色合いなどをセレクトする際のひとつの基準になります。」

 

 

1日の時間をデザインした
「いつか想い出に変わる今」

 

いつか想い出に変わる今

 

最後にご紹介するのは、日本福祉大学美浜キャンパスで行った結婚式。結婚式をデザインするというのはどうい うことなのか、改めて気づいた大切な一日なのだそうです。

 

中家さん: 「最後にお話するのは、日本福祉大学美浜キャンパスで行った卒業生同士の結婚式です。もちろん大学としても構内で結婚式をやった前例はない状況でした。担当プランナーの強い想いから大学との交渉が始 まったのですが、どこで何をするかも決まってないので実現させるまでにお客様の見えない部分での大変なこと がたくさんありました。

 

現地調査にはじめて大学に行き構内を案内されたとき、大階段で空が開けて清々しい気持ちになったんです。そのとき、この風景をお2人は4年間見てきたんだと感じました。そして、そこを挙式セレモニーの会場として提案しました。夕日が沈む海が見える、学食からの風景が好きだったという理由から、パーティは学食にしました。

 

いつか想い出に変わる今

いつか想い出に変わる今

 

そこで青空の下の挙式セレモニーから、夕日が沈む海が見えるパーティまでの1日をデザインするという考えが生まれました。大講義室をウェルカムスペースに、中庭で障害物競争などのレクリエーション。大学で過ごした1日のように、シーンを゙移しながら、ゲストにお2人が過ごした想い出のキャンパスを体験してもらいました。

 

お2人は今は広島に住んでいて、この先またこの場所に来ることがあるかどうかわかりません。友人や後輩も卒業し、恩師も少なくなり、キャンパス内も工事が進んで様変わりし始めていました。原点とも言えるここで過ごした日々を心の中に持つこと。結婚式の1日ももまた、いつか想い出になって立ち帰れる原点となり、人生の支えになってほしい。そんな想いを込めてデザインし、最高の1日になりました。

 

いつか想い出に変わる今

いつか想い出に変わる今

いつか想い出に変わる今


装飾としてはシンプルで、大掛かりなこともしていません。でも、この1日をつくれたのは、担当プランナーの強い想いとそれを受け取った弊社スタッフやパートナーさん、そして僕だからだと自信を持って言えます。本質としてのデザインの役割がわかる事例です。」

 

 

建築も結婚式も、どちらも時間をつくること。

 

中家 拓郎さん


中家さん: 「建築の仕事から、結婚式の仕事をしてみて感じている共通点が3つあります。1つはコンセプトも プレゼンも、自分のやり方はほとんど変わらないことです。はじめは全く経験のないことでしたし、知識もない ところからスタートしましたが、自分ができることはお客様に寄り添い、コンセプトを紡ぎ、パースやスケッチ でわくわくさせて、実現させることです。2つ目は実現するときは、たくさんの専門家や仲間の力が必要である こと。僕一人でできることは限られていますし、関わってくれた人のおかげで、僕の想像を超えた空間・時間に なることも多いです。

 

そして3つ目は、どちらも空間と時間のデザインであるということです。前職の設計事務所で携わっていた建築 は100年使うことができる空間で、そのための構造・設えやフレキシブルさが求められます。住宅は家族が30年くらい過ごす空間で、家族がどんな暮らしをするのか、どう成長・変化していくかを考えます。賃貸マンションは数年で入れ替わることを想定しなくてはなりません。結婚式はたった2〜3時間の、空間をつくることです。だから僕にとっては同じことで、すべて空間と、そこで流れる時間をデザインすることなんです。

 

そしてその短い時間が、誰かの人生にとって一生忘れられない時間かもしれません。その時間が、時に困難に立ち向かう勇気や支えになることだってあるかもしれません。僕自身も、これまでプロデュースした結婚式は一生忘れることのないと思える1日です。この仕事を通して、記憶に残る1日が増えました。この記憶はお客様に頂いたかけがえのない財産です。これからも結婚式に限らず、様々なフィールドで、空間と時間のデザインを提案していきたいです。」

 


住まいは特に「こんな色にしたい」「日当たりを良くしたい」「ウッドデッキが欲しい」などデザインに目が行きがちですが、そこでどんな時間を過ごしたいのかを考えることが重要。「読書を楽しみたい。でも夜に読むことが多いから、日当たりよりも照明にこだわりたい。」「晴れの日には子供と一緒にピクニック気分を味わいたい。だからウッドデッキをつくろう。それなら景色も重要だな。」など、より具体的な希望に変わるはずです。

 

最後に中家さんのお話から住まい、インテリアに活かせる考え方をまとめたいと思います。

 

①その場のもつ力を借りること、今あるものをどう活かすか
②選ぶものは、自分や家族にとってどんな意味があるか意識する
③どうして家を立てたいのか、どんな家庭にしたいのかを考える
④家や部屋それぞれのコンセプトを考える、名前をつけてみる
⑤内装だけでなく、そこでどんな時間を過ごしたいのかも考えてみる

 

住まいと結婚式。別々に感じる二つですが、とてもたくさんの共通点があることがわかりました。どちらも時間や空間をどうつくるかということ。住まいも結婚式も、どちらも多くの人が一生に一度のことだからこそ、表面上のデザインにはしたくないですよね。自分らしい空間づくりに必要なことは、まず「なぜ住宅を建てたいのか?」「なぜ結婚式をしたいのか?」という本質的な部分と向き合うことが大切と教えていだきました。

 

【profile】
中家 拓郎 TAKURO NAKAYA

1985年生まれ。飛騨市、高山市で高校まで過ごし、三重大学・大学院で建築デザインと都 市計画を専攻。 修了後、(株)内藤建築事務所へ入社し、公共建築などの意匠設計に携わ る。京都・名古屋での勤務を経て、2012年よりフリーランスとして活動を開始、2013年に 個人事務所を設立。2014年よりBridal Plusと提携、2016年よりSmile Story(株)取締役に 就任。イベントやウエディングから住宅や店舗の内装デザインまでフィールドを問わず、こ れまで100件以上の空間デザインプロデュースを手がけている。

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HP:bridal-plus.jp / smile-story.jp